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Re:co Symposium #7 "Coffee and Values" by Ted Fischer

今回は、グアテマラでのフィールドリサーチをもとに、コーヒー生産およびコーヒーの価値がいかに生産地の発展に貢献するか、またそうするために必要なものは何か、ということをわかりやすく説明してくれています。 

本日のプレゼンテーターは、ドイツの社会経済学者であるTed Fischer史。

今回のテーマはCoffee and Values。

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"コーヒーの価値"

ここでいう価値とは値段や経済的価値だけでなく倫理的、宗教や政治的なものを指します。

私は、これら異なる類の価値の理解を深め、それらがマーケット動向にどのような影響を及ぼすかを研究してきました。なぜなら、経済的価値のみが我々のモチベーションとなるものではないからです。

グアテマラのマヤの人々が管理する農園とバリスタ、ロースターの方々と8年から9年ほどかけてコーヒーの川上(生産者)から川下(消費者)までのバリューチェーンについて調査していました。私自身、フィールドワークもしますし、コーヒーの価値が経済的、倫理的、政治的価値などすべての分野の価値にどのように影響するのかについての本も執筆しています。

各分野の価値にはそれぞれの指標があります。マーケットに関してはドルやセントなどで示すことができるため簡単ですね。では公平性に関してはどうでしょう。愛や正義などといったものに関しては、数字をつけて価値を示すのは難しいですね。では、経済的な持続可能性に数字をつけるならどうでしょう?

このように世界には様々な「価値」がたくさんあり、異なる価値同士がトレードオフの関係にあります。しかし、例えば経済的価値に倫理的価値、社会的価値に政治的価値、というようにそれぞれが付帯的に合わせようともします。

では、経済的価値を1杯のコーヒーについて考えてみましょう。

収穫されたコーヒーチェリーの価値、ロースターが生豆を購入するコスト、カフェでコーヒーを買うこともあるでしょう。さらにはフェアトレードを支援するために少し上乗せして払ったり、友人との朝のコーヒータイムを楽しむと言った社会性を築くこと(時間的コスト)とか。

1杯のコーヒーは、サプライチェーンの中で多くの方の手をわたりできあがっています。

"グアテマラ マヤ"

さて、ここで私がお話したいのは、スペシャルティコーヒーの価値をこのマヤの農園の価値につなげることです。

現在、マヤコミュニティに大きなスペシャルティコーヒーのブームがやって来ています。しかし、このような小さな農園には、実際に彼らに必要な経済的保障としての寄付金などのようなソーシャルキャピタル(社会的資本)が欠如していることがあります。ここでの問題は、どんな価値をコーヒー事業と追い求めるかだけでなく、誰の価値を事業に求めるかです。そして時に哀れな価値も存在するこの世の中で、どのようにバランスを取っていくべきなのでしょうか。

昔、同僚と二人の生徒と一番美味しいコーヒーを求めてグアテマラ西部を旅した時のことです。その当時のグアテマラの多くはアメリカへのコカインの密輸や違法ドラッグによってコントロールされていました。ウエウエテナンゴと呼ばれる地域周辺を見てみると、あたりは青々した山がメキシコに向かって広がっています。

グアテマラの人口の半分は先住民で、マヤ民族特有の言語が23も存在しています。マヤと名付けられたコミュニティは、平均寿命、識字率も低く、社会から最も疎外されていて、女性や子供のそばをメキシコから密輸されたガスを乗せた車が走っている光景をよく目にします。日常生活の中ではっきりと薬物売買や暴力が見え隠れしています。

素晴らしい農園への道のりはとても険しく、多くの農園はデコボコの道の先にありました。

歴史的にグアテマラのコーヒーの多くは少数の大規模生産者が担っており、多くはドイツ人やイギリス人やスペイン人で、マヤ人は一人もいませんでした。大家族で経営してる農園では定期的に季節労働者が大量生産を支えていました。それを平等に輸出者やロースターに売るというのがコーヒーのバリューチェーンの最初の流れでした。

グアテマラの高地では低賃金労働者としてマヤ人のコミュニティが存在し、コーヒー農園で働いています。20世紀におけるグアテマラのコーヒー農園のオーナーは外国人がほとんどでしたが1990年後半にはグアテマラコーヒーの輸出が大きく減少するなか、コーヒーの外貨収入は増えるという奇妙な現象が起きました。

9年前、グアテマラコーヒーに深い造詣のあるBill Hempsteadに会った時、彼はコーヒー生産の環境が大きく変わっているという驚きの話を聞かせてくれました。その当時のグアテマラでは農園の役割は小さくなっていき、コーヒー生産の環境が大きく変化しました。個人的な見解ですが、これはグアテマラの低賃金労働の習慣と政治的要因が大きく関わっていると思います。

"スペシャルティコーヒーのグアテマラにおける社会的意義"

1990年末には低地で採れるコーヒーより、高地の厳しい環境で採れるコーヒーの取引量が多く見られました。従来の大規模農家は主に低地に農園を構えていましたが、スペシャルティコーヒーの流れが生まれると、コーヒー栽培の中心は低地から高地へと移っていきました。そして、これは経済的、政治的、社会的にもグアテマラに置いて大きな意味をもっているのです。

なぜなら、マヤのような誰も手をつけたがらない高地が、最近では最高品質のコーヒーの栽培に適した場所であったことが知れ渡っていき、熱心な生産者による、スペシャルティコーヒーの生産が増加していきています。尚、ここ25年では、おおよそ50,000人もの新しい生産者が新たなコーヒー農園をグアテマラ、主にマヤで開拓しています。これがグアテマラでのコーヒー農業を大きく変えてきました。

"Anna Cafe"

1990年代、Bill Hempstead氏が”Anna Cafe”と呼ばれる8つの地域でのプログラムを行い、グアテマラでのコーヒーを品質基準で捉え始め、これまでの考え方を根本的に変えました。また2014年にはマヤなどの14のコミュニティ内の397人の主に1ha以下の区画を所有している小規模生産者にインタビューを行いました。そして、私たちは、コーヒー生産が、歴史的にも疎外されてきた地域の人々にとって、 経済的にもとても意味のあることだと分かりました。

実際に収入にも大きな変化がありました。コーヒー生産がこれらの地域の文化的価値を高めたのです。さらに、彼らが自らの土地を所有し、管理できるようになったことも文化的観点から見て重要なポイントです。スペシャルティコーヒーを作るようになり、マヤのコミュニティを保護する組織も誕生し彼らはコーヒー栽培で生計を立てれるようになりました。この動き自体、グアテマラのコーヒー生産に置いてとても意味のあることです。これがコーヒーウェーブの2つ目です。

"サードウェーブコーヒーの価値"

サードウェーブコーヒーの価値は一体何でしょうか。

コーヒーには多くの特性やテロワール(地理や気候の特徴)の影響や加工、焙煎、抽出法といった科学的な知識などたくさん構成されていますが、これに生産者の伝記物語などといった芸術性も加わるのではと考えます。遠く離れた場所での農家の生活と消費者をつなぐ、芸術的な素晴らしい品質のコーヒー。コーヒー農家にとって良好なテロワールが重要視されるのに加えて、マヤの農家たちの豊かなコミュニティや古くから残る遺産のようなストーリー性、物語も重要になっていくのがサードウェーブです。

"マーケットへのアクセシビリティとソリューション"

2015年、ウエウエテナンゴの小さな素晴らしい農園をいくつか特定し、マップ化、さらに直接現地へ行きインタビューを行いました。価格データを集め、そこのサンプルを購入しました。それをグアテマラナショナル生産者協会へ持って行き、焙煎し、ブラインドカッピングを実施しました。結果は75%のコーヒーが彼らの定める80点の基準、58%のコーヒーが85点の基準をクリアしたのです。気候や標高などの生産条件からして当然の結果かもしれませんが、価格データを見ると、Excellenceと認められているコーヒーは水洗式のアラビカ種として平均$4/poundで売られているのに対して、マヤ人が管理する小さな農園は$1.25/poundで売られていました。このマヤ人の農園は規模が小さいという理由で、サードウェーブの高品質コーヒーとして見なされていませんでした。それだけではなく、言語能力や社会的ネットワーク、コスモポリタン性や国際市場への関心といった、ソーシャルキャピタルが欠けているのも大きな理由の一つです。マヤの人々の農園ではないその他の地域の大きな農園では、スペイン語や時に英語を話します。マーケットが何を求めているのかをよく理解しています。このように彼らは、知識やソーシャルキャピタルをコーヒーへの新たな付加価値へとして変化させることができます。

マーケットに精通した生産者たちはサードウェーブコーヒーの象徴的な側面をよく捉えています。あるバイヤーはコーヒーの品質を大切にするとともに、生産者からのストーリーをとても大切にし、それを話してくれることに感謝を示してくれるようです。コーヒーの価値をより高めるのはもちろん我々のゴールですが、より良いクオリティ、さらにバリューチェーンにおける両者がより良い条件になるのもゴールの1つです。

コーヒーに関わる人々に価値について真剣に考え、高める支援をしなければなりません。コーヒーはフェアトレードのアイデアにおいて、素晴らしい例です。特にSCAが活動を行い、結果を残しています。しかし予期せぬ結果に至る場合もあります。最先端のユニークなコーヒーの味や品質を求めすぎるとすれば、それはソーシャルキャピタルの欠けている小さな農園にとって彼らの権力を奪ってしまう可能性があります。

"私たちの役割"

最新のコーヒーコアプログラムは知識だけでなく、ソーシャルキャピタルをマヤ農園のような生産者に届けることです。多くの生産者が規模の小さな生産者と繋がりを持ち始めています。このプログラムは極めて困難で長い道のりです。ですが本質的に求めているのは、経済を最大化させることだけでなく、それと同時にあらゆるすべての価値を、一度に最大化することなのです。あなた方にはグアテマラのような地域を発展させ、その価値を消費者価値のナラティブに変えることのできる、実質的な力があります。そして、他との違いを新しい価値を生み出すより良いものにしていく力があります。

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今回はグアテマラを例に話が進められましたが、同じようなことは他の生産国でも起こりうることだと思います。

アフリカのコンゴ民主共和国やブルンジ、南スーダンなど、世界でも最貧国に分類されるこれらの国々でもコーヒー産業を通じて、現地の人々の経済的、社会的発展に少しでも貢献することができるかも知れません。

確か、数年前ネスレが南スーダンでのコーヒー産業に投資をしていた気がします。現状はどうなっているのでしょうか。

他にもコーヒーを通じた地域発展の事例は多くあります。また別の機会にご紹介できればと思います。

Have a nice cup of coffee.

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